近年の経済活動は、何もかもスピード化している。情報通信・オートメーションシステムの導入はいまや不可欠で、それをより効率的に行わせるために「分業」というシステムがある。これは、生産工程の一部を他者に委託して、それぞれの完成された部品を組み合わせて製品を市場に送り出すことで費用削減を狙うものである。分業により、分野ごとのスペシャリストである熟練者が生まれた。分業で有名なものは、自動車会社の下請け制度である。しかし、下請けの会社は親会社による保護があったために、親会社以外には受注されないという関係があった。親会社は下請けを保護することによって、自社技術を隠すことができる。下請けは、親会社からの安定した受注が得られるわけである。高度経済成長期にはその方法でもうまく回転していたが、バブルが弾け、情報化の波に乗り遅れ、国際競争力が弱体化し、日本の産業は低迷、下請け制度は崩壊した。下請けの会社は親からの保護がなくなり、親以外のツテがないために痛手を被り易いのである。
しかし、現在ではアウトソーシングという分業制度が普及している。アウトソーシングとは、企業の生産システムの一部を外部の企業に委託し、それにより各種の効率化を図るものだ。
アウトソーシングの採用方向
アウトソーシングは、社内の業務を外部に委託することだが、普通は経理や警備、ITシステムの周辺業務などが対象となってきた。周辺業務をアウトソーシングすると、コストダウンや効率化を図ることができるが、あくまで周辺業務のために中核には触れない。これはバイトと同じで、ただの人件費削減などのコストに対する採用方向である。これに対して中核を強化するために必要に応じてアウトソーシングすることもある。製造業の中核業務は研究開発と製造だ。企業の心臓部といえる業務である。こういったコストよりも技術をアウトソーシングすることを技術リバレッジングと呼び、最近は増えている。
業務の委託
アウトソーシングは普通の外注・代行とはちがう。コンサルティングや、人材派遣とも違う。
アウトソーシングは業務の設計や計画・運営に加われるのに対し、人材派遣は業務に一切関わることができない。業務の一部に関わらなければ仕事ができないのは、コンサルティングと外注・代行である。
戦後の日本など、急成長してきた国に対してアメリカの国際競争力の低下に、産業は対応を迫られていた。そこで生まれたのがアウトソーシングである。有名なのはIBMの情報システム構築である。社内の情報システムの構築は、その会社の中核を晒すことになる。そのリスクは致命的過ぎるため、敬遠されがちであった。しかし、米コダック社とIBMが契約を結び、中核業務の効率化に有用な手段として認められることになった。アウトソーシング実施の発表が株価上昇につながるほどである。
日本
日本でも不況により経済が悪化した。アメリカの経済再生に貢献したアウトソーシングが注目され始めている。しかし、日本ではまだまだ旧世代の慣例が効率化を妨げている。年功序列型の給与システムは高年齢層への過剰なコストを生み、企業の収益にかなりの悪影響を与える。高学歴化による事務系の管理職が増えることで、組織のコミュニケーションの複雑化を引き起こしている。
また、同じく旧世代の慣例から、先行事例があったり、安全だと思われる分野でのアウトソーシングが中心となっている。自社か委託か、スッパリきれる分野でしかアウトソーシングされない。経営企画や研究開発のような、自社のコアに関わるアウトソーシングは少なく、戦略的な利用とは程遠いようだ。明らかにコスト削減のための採用が多いからである。
日本の場合、グループ企業にグループのためのアウトソーシング子会社を作ることが多い。社名の頭にNECやNTTといった名前がついているのがそれだ。そうすれば、信頼のおけるアウトソーシングを実現できるからである。また、グループに乱立する会社の人事部を一つに統合し、全社の人事部として動く会社をつくることによって、コストを削減することもある。
アウトソーシングの功罪
アウトソーシングとはその通り、外部資源化である。自社技術を外部に公開してしまった場合、二度と自社だけの技術とは呼べなくなる。IBMはPC/AT機を外部に公開してしまい、自社だけの機体ではなくなってしまった。現在では殆どのパソコンがPC/AT互換機ではあるが、IBMにはIBM製品でしか収益が入らない。しかしながら、PC/AT互換機が普及したおかげで、パソコン自体の経済効果が爆発的に起こり、IBMはその市場の開拓に成功して収益をあげたともいえるのである。もし外部に公開しなかったら、世界の標準機にはなり得なかったかもしれないからだ。これは結果論だが、そういう事例は他にもたくさんある。