くるまというものは

 車というもの。
 クルマにもいろいろあるが、クルマ好きが必ず第一に見るポイントは、形状すなわちデザインだと思う。内部効率化の工業的デザインとは違う、あくまで外見(色や形、音)としてのデザインのことだ。

 でも、外見に目が行くのは良いんだけれど、どこから見た外見なんだろう?これは人によって違うと思う。例えば、フロントから見たデザインが好きだったり、側面が好きだったり、テールが好きだったりするだろう。
 そのデザインの車に乗りたいから、買ったあなた。買って乗るからには、他者に自慢をしたかろう? 運転することは、自信を持ってそのデザインを他者へ見せることができる絶好の機会だ。

 でも、ちょっと考えてほしい。これは車に乗っている人じゃないと分からないかもしれないが、実際に運転していて、他者から車のどこを一番見られるかというと、テールすなわちオシリなのである。何故なら、横から隣の車を走行中にまじまじと見ることはあり得ないし、ましてやフロントを見ることなどルームミラー越しでないと無理だ。

 そう、車で一番カッチョよくあるべき部分はテール。おケツなのだ!

 おケツこそ念入りに洗っておくべきだ。おケツこそ金をかけてコーティングすべき部分なのだ。オカマを掘られて一番情けなくなるのはテールである。テールだからって直さないと、フロントがどんなに綺麗でも、道を走れば恥さらしもいいところだ。
 安い軽自動車はこのテールのデザインがよろしくないものだ。軽は軽量化するために、ボディがとても薄い。側面は衝突安全性のためにきちんと作られているが、バックドアが安っぽくみえるのだ。テールランプ等もそれに引っ張られるかのように安っぽく見えてしまう。これこそが軽の安っぽさにつながると考えられる。いつも、テールを見ているのだから。

 会社の帰り道。
 手でつかめるかというほど近く見える雲と、それに覆われた空。いつの間にか成長している稲の横を、用水路が走っている。ちょろちょろと水が流れているのは、雨が降ったからだろうか。
 突然ぴちゃりと音がした。はっとして用水路を覗き込むと、ドジョウが数匹泳いでいる。底の砂がきらきら光ながら、冷たい水とゆっくりとした時間の流れを共有している。いつからそこにあったのだろうか、これからもありつづけてくれるのだろうかと考えていると、きゅっと車の止まる音がした。
「おーい、帰るんなら言ってくれよ。乗れー」
運転席から、助手席のパワーウインドウを開けながら叫ぶ先輩だった。
「あーもう帰っちゃったかと思ったんですよー」

 俺は今日、家に帰る。そして明日の朝、家を出て、また夕方に帰るのだ。
 カエルの声と踏み切りの音が、薄暗い田園風景にこだましていた。