ネトゲはよく現実逃避だと言われるが、実際のネトゲと現実逃避の関係には、到底その一言だけでは表現し切れない深い要素がある。
「現実逃避」とは、文字通り、直面している厳しい現実を棚上げし、その問題があたかも存在しないかの振る舞い、別の何か「楽しいこと」をして時間を潰す、という意味だ。そして、一般的に逃避する先と言えば、テレビを見るとか、マンガを読むとか、ゲームをやるとか、そういった生産性のない、誰にでも簡単にできて特に失敗しない遊び、といったようなものになる。それらはあくまでも本当にただの一時的な時間稼ぎであって、それ以上特に深い意味は持たず、遠からず終わりがやって来て、否応なく現実に引き戻されることになる。
だが用いる道具がネトゲだった場合、話は変わってくる。現実からの逃避にネトゲを用いた場合、直面している厳しい現実から精神的に逃れられるのはもちろんのこと、ゲーム内において、レベル値、金、レアアイテム、他人、そしてゲーム内における知り合い、といったような複合的要素によって、現実では得がたい自身の存在価値というものが、非常に安易に得られてしまう。つまり現実逃避が、一時的な時間稼ぎという枠を越え、「現実よりも逃避先の方が自分に対して高い価値を認めてくれる」という、主従の逆転とでも言うような状態に陥る。こうなるともはや抜け出すのは困難で、ゲーム内にいた方が自分の価値が高い、仲間もいる、だからゲームをやる、その結果現実での自分の価値はさらに下がる、という「価値下落のスパイラル」に巻き込まれる。