規格

今、ハイビジョン放送を録画しようと思ったら、手段は4つしかない。
・ハイビジョン対応HDレコーダに録画する。
・D-VHSビデオレコーダでハイビジョン録画する。
・ブルーレイディスクレコーダで録画する。
・HD DVDレコーダで録画する。
実は、一般に広まっているDVDではハイビジョン録画をする事ができない。
理由は明快で、単に容量が足りないからである。
持ち運べるディスクにハイビジョン録画しようと思ったら、ブルーレイかHD DVDしかない。
しかし、またここで次世代ディスクの規格争いが起きている。しかもいまだかつてない程の強引な競争だ。
近いうちに、二種類のディスクで映画パッケージが発売される。パッケージによって違う規格のディスクを採用することになるのだが、どちらにも対応したプレーヤは無い。
標準規格化団体などをまったく考慮せず、市場に出してしまえば勝ちという考え方で両者は争っている。

こういった規格の争いは昔からあることだ。

有名なのは、ビデオテープのベータとVHSであろう。
SONYのベータと、ビクターのVHSがビデオテープの座を争った。
VHSって何?という人は、自宅にあるビデオテープをよくみて欲しい。VHSと書いてあるはずだ。それは、テープ窓が二つあり、ベータのビデオテープよりも大き目のビデオカセットテープである。ビクターのVHSと書いたが、今普及しているVHSビデオはビクターが開発した。
画質や、技術的な画に対する考え方はベータの方が優れていた事は有名である。
品質として見たとき、ベータとVHSでは差が明確であった。だがVHSが勝った。なぜか。
SONYはベータテープのライセンス料を高めに設定していた。絶対の自信があったからだ。
ビクターは、別の路線で攻めた。VHSを他社が採用しやすくするようにライセンス料を下げ、徹底的に売り込んだ。エロビデオも普及に拍車をかけたらしい。
するとどうだ。当時、ビデオはそれほど必要の無いものという認識だった。ファミコンの方が売れていたくらいだ。
ポツポツとビデオデッキを持つ家庭が現れた。ライセンス料が安いのでテープやデッキを安く作れたVHSが売れ始めた。
他の人からテープを貸してもらえば見ることができる。ビデオの便利さはすぐに理解された。安いVHSが普及し始めていたとき、もはやベータの入り込む余地は無かった。
友人がドコモばかりだから自分もドコモにすれば安く済むと思ってしまうのと同じです。
売れているものがイイモノとは限らない。それが消費者主義社会です。

ベータとVHSの争いはストレートで分かりやすいものだった。
しかし、二つが争っていたトコロにもっと優れた規格が割り込み、市場を奪われる事態もある。
皆さんは電話回線を使う「アナログモデム」をご存知であろうか。
パソコンにつないで、デジタル信号を電話回線で流すアナログ信号に変調する機器である。
接続を開始すると「ピーピョロロロゲチョンゲッチョンズザザザザザー」と鳴る。
これは変調されたアナログ信号を音にしたものだ。
アナログモデムは、28.8kbpsという速度が限界だと言われていた。28.8kbpsでも不安定な通信だったのだ。しかし、一年経った頃に33.6kbpsという高速モデムがでた。電話交換機の限界だと言われる帯域と、新方式のデータ圧縮、データ修復機能を使うことで実現した。当時は現在と違い、高品質な部品を搭載してケースにモデムをくるんでいた。パソコンの処理能力が低かったので、モデム側で膨大なデータを処理できるようにしていたのだ。(今ではパソコンが内臓モデムの処理を肩代わりしています)
流石にこれを超えるモデムは無い、ついに上限に辿りついてしまった。そう言われていた。一台2,3万円は普通であった。しかし、インターネットが家庭に普及し始めていたので「最高速モデム」の名の元に売れた。ウェブブラウザでは、文章の後に画像が遅れてゆっくりと表示されるのだ。
しかしまた一年後、皆さんよくご存知の56kbpsモデムが登場してしまった。
数字だけでみると実に28.8kbpsモデムの二倍である。
この56kbpsモデムは、K56flex・x2という2種類の規格が発表された。2種類の通信方式は相互に利用する事ができず、ベータとVHSのようにどちらかが勝つだろうと思われていた。ユーザは前例に習い、なるべく売れているほうを購入した。パソコン通信事業者やインターネットプロバイダ側も、どちらを採用するか迷った。
しかし、どちらの規格も消えてしまった。もっと優れた新しい56kbpsモデム、しかも標準規格として天下のITU(国際電気通信連合)に策定された新規格が生まれたからだ。
V.90 それが新規格の名前である。以前からある2つの規格のイイトコ取りで、速度は下り56kbps上り33.6kbpsであった。業界の標準として一気に普及した。
この新規格は以前からある2種類の規格のモデムとは通信ができない。対応できないモデムは捨てることになった。しかし、現在の56kbpsモデムはV.90しかない。ユーザの混乱を招かずにすんでいる上に、性能、コスト的にも最良の選択となっている。

MD(ミニディスク)を知っていてもDCC(デジタルコンパクトカセット)を知っている人は少ないと思う。
こいつらも争った。単純な視聴比較での音質・値段はDCCの圧勝で、現在のDAT並に使えるものであった。しかし、MDが勝った。
決め手は完全にマーケティング失敗によるものだ。MDは、ディスクなのに録音できるという新しさも後押しした。
SONYはMDこそ最高のディジタル音楽機器と絶賛して売った。実際に、薄く小さく使い勝手がよく、頭出しも早いのでアピールポイントがとても多かった。利便性ばかりを具体的にアピールするくせに、音質については「ディジタルだから音がいい」としか言わなかった。露骨過ぎて笑えなかったが、MDに使われている音声圧縮技術ATRACは正直言ってMP3よりも豪快に音を捨てる。あの小さいディスクサイズに録音するために効率の良い圧縮をしているのだ。印象としては、低音と高音と中音が強調されたテクノチックな音になる。それはまあいいとして、MDレコーダの取扱説明書には「ATRACは聴覚心理学がどうのこうのして圧縮するので、人間に分かる音質低下はありません」と言い訳が書いてある始末である。
作り手も、「音質は気にしないでくれ」と言っているのだ。なんて悲しい機器なのだろうか…
DCCは音質ばかりをアピールした。しかし、テープである事は変わりないし、真新しさが無かった。今までのテープも聞けますという上位互換性があったが、ウケは悪かった。
DCCもディジタルデータの音を圧縮して録音する。だが耳にくるような音質低下はあまりなく、自然に聴ける良さがあった。
市場はMDを選択した。現在、外に持ち出す音楽メディアは普通MD。周知の事実だ。

生き残りをかけた争いが激化すると、市場が混乱する。

最期に、無茶苦茶な結果になってしまった例を紹介する。
皆さんよくご存知のDVDである… しかも、記録式の。
元々、DVDフォーラムというDVDの標準化団体を各社が協力してつくっていた。
そこで、DVD-ROM/DVD-R/DVD-RW/DVD-RAMが生まれた。
DVD-RAMは、パナソニックが昔出していたPDというディスクの後継となるものだ。
DVDフォーラム内ではパナがDVD-RAMを推進している。パナソニックのDVD-RAMドライブ以外ではカートリッジ式のDVD-RAMをそのまま使えないのは、パナ特許のせいだと思う。
だが、例によってソニーが反逆した。
DVD+R/DVD+RWといういかにもとってつけたような名前の新規格ディスクを策定して売ってしまったのだ。
+だと、様々な点でDVD-ROMとの互換性が向上する。それを理由に、新規格のディスクを市場へ売り込み始めたのだ。
結果、市場には-と+のドライブがでてきた。非常に混乱する事態だ。-ドライブで+メディアに書き込むことはできない。その逆もまた然り。
ところが、パナソニックがマルチドライブという凶悪な製品を作った。全種類のディスクが使えてしまうのである。
非常に低効率な方法だが、市場が混乱しているときだからこそ何でもつかえるほうが売れるのだろう。

今では、何でも使えるマルチドライブが普通である。

4件のコメント

  1. 今回はSonyのBlueray-Discが普及すると思うに1セペタ。
    PS3で正式にサポートが決まったのが大きいと思うッスヨ。
    たかがゲーム機、されどゲーム機。

    どうでもいいが、PS2改良版、いきなり薄くなりすぎ。

  2. 俺もブルーレイが普及すると思うのだが
    パソコンで記録式ドライブがでるかというと、かなり微妙な気がする。
    あれは家電用ディスクだからね。
    便利になるのはいいけれど、子供に触らせては絶対にいけないようなモノにはして欲しくないと思います。

  3. >皆さんは電話回線を使う「アナログモデム」をご存知であろうか。
    もうそんな時代なのね。「モデム」が何なのか、ましてや、何の略語なのかも知らない世代になってきてるのね。いずれ、56kモデムですら、フロッピードライブと同じように、オプションになるのかな?
    しかし「プ○ジェクトX」みたいな文章だな。

  4. モデム、もうオプションになってるヨ
    ちなみに、今売っているFAXはモデムで画像を通信しています。