スキーウェアのクリーニング

自宅で絶対に洗えない衣料品は結構ある。
例えば、布団。毛布は洗えても、座布団や敷布団は無理。
そしてスーツ等の高級衣類、毛皮のコートなどアウターも難しい。
特に、洗えそうで洗えないものといえば、動物性の繊維である。
毛糸のセーターを水で洗うと縮んで戻らず、油脂が抜けてテロテロになる。

もし水洗い可能と書いてあったとしても、綿と化学繊維以外は安心できない。
一般の合成洗剤は、タンパク質を汚れとして酵素で溶かしてしまうため
タンパク質である動物性の繊維(毛糸やシルク)は強力に分解される。
小学校の家庭科で全員習うことだが、多くの方が忘れている点なので
ボロボロになる前に洗剤の注意書きをきちんと読みたいものだ。

さて、洗濯で落とさなければならない汚れは、大きく分けて二種類ある。
汗などの水溶性汚れと、皮脂などの油溶性汚れだ。
家庭で水を使って落とせるのは、原則として水溶性汚れだけだが、
洗剤・漂白剤を使うことで「一部の油溶性汚れ」も分解できる。
ただし、油溶性のシミや、微量の油溶性汚れが蓄積して目立ってきた汚れは
家庭では洗うことができず、有機溶剤で洗うクリーニングに頼む事になる。
これが雑巾や、一部のシミであれば「灯油で洗え」という話になるが
デリケートな衣類を家庭でジャブジャブと灯油洗いしたらどうなるか。
言わずもがなだ。
そもそも有機溶剤は汚れのためではなく、繊維を傷めないために使う。
有機溶剤ならティッシュペーパーも洗濯・乾燥しても破れない。

日本は数千年の歴史、大和が蝦夷を退け、武士がはびこり
室町、鎌倉、江戸時代になっても、人々は衣類を水で洗ってきた。
つまり、水だけで洗濯していても人は生きていけるわけだ。
しかし、文明の発達と共に、文化はよりデリケートになってしまった。
汚く見えるものは嫌われてしまい、社会から隔絶されてしまうのである。
なぜなら綺麗な方が気持ちいいからだ。
これが人の進化だというのであれば、理解せねばなるまい。
近代以降に定着したシャンプーみたいなものだ。

そこで初めてクリーニングに出す必要性を理解できるのだが
お題はスキーウェア(スノボウェア)である。

スノーボードのウエアは、ご想像の通り多機能であり、家で洗えない。
(厳密には特殊な洗剤を用いれば洗う方法はあるが一般的ではない)
透湿、防水、防寒、吸汗と様々な仕事を一手に引き受けている。
ゴム・金属・プラスチックも多用されている。

自宅の洗濯機で洗えば、防寒の分厚い部分がダブダブに水を含み、
乾燥中にヨレてしまい、表面のコーティングが落ちて
防水性・防汚性が損なわれてしまうだろう。
そして、汗による汚れは落ちるかもしれないが、
ワックスや皮脂による油溶性の汚れは落とすことができない。

そこでクリーニング店に依頼する。
すると、ウェットクリーニングという手法で、水を使う洗濯をしてくれる。
え?ドライクリーニングなんじゃないの?型くずれしないの?と思うかもしれない。
これは「汗抜き加工」とか「ダブル加工」とか呼ばれる。
スキーウェアなどの明らかに汗汚れが多い衣類は臭いも強いため
店員さんが何も言わなくても普通はウェットクリーニングになる。
(念のため確認はした方がいいのだが…)
これで、水溶性・油溶性の汚れを都合よく両方落としてくれる。さすがプロ。
気になるのは防水性だが、別料金で防水加工をお願いすれば良い。
一着のみなら自分で防水スプレーするのと金額的な優位性は無いと思う。

結果を言えば、とてもさっぱり洗濯されて戻ってきた。
目立たないところに水をぶっかけてみたが、よくはじいた。
汗臭さも消えて、シワも消え、気持ちいいものだ。