オンリーワン

今回は小説です。
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ナンバーワンにならなくてもいい
元々特別なオンリーワン♪

オンリーワンになるには
ナンバーワンを目指すのと同じくらい大変なんだけどな。
戦う土俵、ステージが同じだったらだけど。

サッカーがとても得意な子がいた。
彼の親は、彼をオンリーワンにするべくサッカーに集中させた。
周囲の人は皆、彼の将来はサッカー選手だと思った。
そして彼はサッカーの名門高校に進んだが、ナンバーワンになれなかった。
サッカー選手の夢を諦めざるをえなくなったが
高校ではサッカーしかやってこなかったので大学に進学できず、
卒業後はバイトを始め、社会人サッカーをしながら生活していた。

数年してバイトしていた会社から、なんと正社員にならないかとオファーが来た。
少し悩んだが、仕事中の掛け声「ハイヨロコンデ!」がつい出てしまい承諾。
彼の望んだ道ではなかったが、平凡な生活という光が見えてきた。

ある日、合コンに誘われた。高校時代の先輩からだった。
初めての合コン、ちょっと緊張しつつ、パリっとした身なりで行ってみた。
知らない女性に趣味を聞かれた。サッカーだと答えた。
サッカーが好きだった。
仕事を聞かれた。接客業だと答えた。
いま食える唯一の仕事だった。
ところで、サッカー好きは「見る人」と「やる人」で違う。
やる人は見るのも楽しめるが、見る人はやりたくない人も多い。
女性もサッカーは好きだが、見る派だった。
次に、その女性は彼の隣に座っていた先輩に話しかけた。
先輩は仕事で海外を飛び回っており、海外の習慣の話や、少し外国語を話してみせた。
そして時々、電話がかかってきては英語で対応していた。
日本は夜でも向こうは昼だからよくあることさ、と言っていた。
その後はサッカーの話ができなくなった。

2次会はスポーツバーに行ってみた。
スポーツバーとは、店内に大きなテレビがあり、試合を皆で応援したりできるバーだ。
さっき寂しい思いをした自分に、先輩が配慮してくれたのだった。
ここで空気を支配できなければ、自分のオンリーワンに自信を失う。
気合を入れて店内に入ると、案の定サッカーがテレビに映されていた。
やったぜ。拳を握りしめ、ヒーヒーフー!とラマーズ呼吸法で集中力を高めた。
しかしバーは満員で、外国人がひしめき合っており、
スタンディング(立ち飲み)しか出来ない状況だった。
彼は立ちすくんだ。
先輩が颯爽と突入し、外国人のグループに二言三言話しかける。
イエー!と先輩と外人が二人で抱きあうと、なんと席を空けてくれた。
先輩かっこいいです。
席で女性たちはまた先輩に話しかけていた。そりゃそうだろう。
でもここでは、サッカーを見ながら皆に解説できて、楽しかった。
食いつきも悪くなかったから、今日は楽しかったよかったな、
でもサッカーが魅力的かどうかは人によるのだな、と痛感していた。

突然、カウンター席から大きな音がした。
ガラスが飛び散り、男性が倒れていた。
静まり返る店内。

男性は苦しそうに真っ青になった顔をしかめ、不規則な呼吸をしていた。
…まずい。
彼は高校時代から試合中に倒れる人を何度も見てきており、
この倒れ方はそれによく似ていた。
何も考えず足が動いて、男性に近づき、反応と呼吸を見て店員に叫んだ。
「すぐ救急車!あとAED持ってきてください!」
彼は人工呼吸を始めた。心肺蘇生法くらい自分にも出来る。たぶん。
よく見ると男性は手で胸を抑えていた。本当に心臓かもしれない。
「だれか胸部圧迫手伝ってください!」
すぐに数名が手伝い始めた。
救急車は呼んでから7分間は来ない。
店員が近くのカラオケ店からAEDを持ってきた。どうやって見つけたのか。
心電図の分析と電気ショックが自動で行われ、2回ほど繰り返した。
すこしして救急車が到着し、彼は状況を説明した。AEDの電話もした。
男性がその後どうなったのかは分からない。

席に戻ると、全員が彼を褒めた。
彼は、別にサッカーじゃなくてもいいんじゃないか、自分は。
そう思った。