営業というもの

それなりの価格であるならば、
コストを跳ね上げてしまった理由、
すなわちアピールすべきポイントは、全力でアピールしないといかん。
お客様には、黙っていても気づいてわかってもらえる。
使っていれば違いがわかるハイクオリティがうちの売りだから。
といった、スタティックな営業方針はよろしくない。
大手電機業界の惨状の原因を聞かれれば、これに尽きる。

普通、マンションを買うことは、人生一度で最大の買い物だろう。
だから多かれ少なかれ、建築や住宅を勉強してから、購入に至る人もいる。
しかし少ない時間で付け焼刃的な知識が殆どとなってしまい、
土地や建物や部屋の良し悪しよりも、実際はお金が一番の問題となる。
品質とコストのバランスを真っ当に評価してから買える人は少ない。

今時のマンションの設備や建築手法は、昔のそれとずいぶん事情が違う。
個人的な印象でいうと、進化?を重ね、便利さや安全性が底上げされている。
だから何も考えずに買ったとしても、普通に住むには十分満足できるだろう。
巷にあふれる「欠陥住宅」という貧乏くじさえ引かなければだが。
(元一級建築士・姉歯さんの事件は、氷山の一角だと思っている)
しかし、モノや設備の価値は「機能」では語れない。
「機能」がどれほどのもの、つまり量的な面が重要だ。
しかたなく存在するような機能であれば、初めから要らないのだ。

例えば、自動照明やテレビインターホン、IHコンロといった
後からいくらでも変更可能な設備は、本当に最重要視されるべきか。
そんなのより、分厚い壁、防音性と保温性の方が遥かに重要ではないか。
RC造なのに夜中に洗濯機やシャワーが使えないようでは目も当てられない。
いくら集合住宅とはいえ、一生住むかもしれない家として破綻してしまう。

一見、後から変更可能な設備が、実は変更不可なパターンも多い。
例えば、マンション独自のインターネット環境。
「インターネット完備」「光対応」と書いてあっても、
インフラはどこの会社か、速度はどのくらいか、
グローバルIPアドレスが振られるのか。
それ如何によっては自分で敷設し直させねばならない。
そして、それができる建物と階数は限られる。
マンションによっては、マイナーで遅いプロバイダに共益費で全戸強制加入、
機器に割り当てられるIPアドレスはプライベートアドレスのみで、
一部のソフトは通信できない、なんてこともある。
酷いと、全戸がLANで共有され、別室のPCの共有フォルダが見れてしまう。
また、どこかの部屋がヘビーユーザで、帯域を占有すると全世帯が遅くなる。
(流石にマンション自治会で問題になるだろうが…)

大前提として、マンションを買いたい人はマンションに詳しくない。
だから売る側が、ここに金がかかってるからここを見てほしいとか
生活しているとここに差がつくとか、これを見逃したら安全は無いとか
客を教育して、マンション購入能力を育成するような広告や営業にしたら
きっといいんじゃないかなあ。
それが出来ないとしたら、物件に何か知られたくない部分があるに違いない。

「バスルームの水栓にこだわって少々コストアップしましたが
 これを外したら残念な住み心地になるので諦められませんでした。
 後から取り替えるより大幅に割安ですので、ここは売りポイントです」
そんな営業トークは聞いてて楽しいよね。
(そこにきて価格が信じられない額だったらただの詐欺なのだが)

車を買うときにはディーラーにいくものだが
エンジニアや営業が「教えたがり」だと車について教育してもらえる。
こちらも聞く姿勢で興味を向ければもうノリノリだ。
修理中の車の部品を外して見せながら解説してくれたり、
他の顧客の失敗談や、営業方針も聞けたりする。
売ることそっちのけで、あぁこの人は車好きなんだなと思ってしまうが
確かに車にある程度詳しくなれるし、買う時に見るべき場所や
買う前に乗って感じるべき挙動について細かく教えてくれた。
もっとも、現場のエンジニアや営業は顧客と直に接するうえ、
会社に利益をもたらしているのは自分だという自覚があるからだろう。